イタリア系アジア人(自称)のブログ

イタリアの一流ビジネス大学を経て、新卒一年目から東南アジアで働く男のブログです。挨拶はチャオ。

初めてのインドで詐欺に遭って、200km離れた隣町までとばされた話

あれはちょうど2018年の2月。その時の僕は大学最後の試験が終わり、卒論も提出し、就職まで思いっきり遊ぼうという開放感に満ち溢れていた。

大学4年間で20カ国以上を訪れ、ヨーロッパや東南アジアでバックパッカーも経験していた僕は、その時まだ見ぬ土地への憧れが強かった。その中でも特に惹かれていたのがインド。牛が道を行き交い、右手でカレーを食べ、GDP成長率が7%を超える国。

1ヶ月近くアジアでバックパッカーをすることに決め、そのうちの9日ほどをインドで過ごすことにした。どうしても行きたいと思っていたタージマハルのあるアーグラと、ガンジス川のあるバラナシを目的地とし、旅の計画を立てる。

空港に到着

クアラルンプールで飛行機を乗り換え、いざデリーの空港に到着。時間は午後10時30分。外はすでに真っ暗だ。初めてのインドの熱気と独特の匂いに心が踊る。

インドに入国するには事前に申請したビザのチェックを受ける必要がある。これらの申請に時間が取られ、結局全てのチェックが終わって空港の出口にたどり着くと、すでに日付が変わろうとしていた。

ここでまず一つ目の誤算が生じる。ニューデリー駅近くに予約したホテルまでは、空港からの直通電車で向かう予定だったが、その電車の終電時刻が過ぎてしまい、もう電車が動いていなかったのだ。これは困った。タクシーで向かう以外に方法はなさそうである。

一旦空港内に戻り、SIMカードの購入と両替を試みる。さすがはインド。こちらも一筋縄ではいかない。

見渡す限りSIMカード売店と両替所が空港内に一箇所しかないのである。夜が遅いからか、僕が見逃していたのかもしれないが、とにかく一箇所ずつしか見当たらない。旅行客もそこに殺到しているのでとりあえずはそこで購入するしかなさそうだ。

SIMカードのプランや値段、最新の為替情報を調べてから旅をするのは当然の準備である。それらの前提知識がないと、アジアなどではぼったくられても気づかないし、適切な値段交渉ができないからだ。だがこの時、一箇所しかないSIMカード屋さんも両替所も、ネットの情報からは考えられないような法外な値段をふっかけてきた。空港内のショップが、である。

仕方なくSIMカードは諦め、ひどいレートで50ドルだけ換金し、市内へタクシーで向かうことにした。この決断が、僕のインド旅のその後を大きく変えることになるとは、この時の僕は想像もしていなかった。

怪しいタクシーに乗せられて

 SIMカードがないのでネットには繋がらず、インドルピーを50ドル分だけ持った状態で、タクシーに乗り市内へ向かうことにした。時刻はすでに0時を回っている。

ところがいざタクシーに乗ろうとすると、タクシー乗り場にはものすごい人だかりができていた。ここにいたら、ホテルに着くのは何時になるんだろう。そう思って絶望していると、後ろから気の良さそうなおじいちゃんが話しかけてくる。「俺のタクシー向こうに停まってるから、乗せてやるよ」

怪しすぎる。アジアだと、タクシー登録していない一般人が勝手にタクシー業務を行って、観光客をぼったくるのはよくある話だ。普段なら全く相手にしないのだが、今日は長時間の飛行機と慣れない環境で疲れている。「ちゃんと値段交渉すれば大丈夫かな」

おじいちゃん運転手にしっかりメーターを回すように伝え、彼の車に乗ることに決めた。この時点で、30分後にはホテルにチェックインできると楽観的に考えていた。インドを完全になめていた。

いざ市内へ

タクシーは順調に市内へ向かっていた。おじいちゃんは実は50歳で、20歳と16歳の娘がいるらしい。インド英語で気さくに話してくれて、車内はそこそこ盛り上がりながら順調に目的地を目指していた。ネットには繋がらないもののGoogle Mapを見ながら位置を確認する。あと500メートル程で到着というところまで来た。「やっとホテルでゆっくりできる」そう思いながら安心していると、突然車が止められた。

私服の男性が何人か道を封鎖しているではないか。聞くと、彼らは実は警察で、何かの事情で道を封鎖しなくてはいけないらしい。観光客は危険だから、一旦政府公認の観光案内所へ行って指示を仰げとのこと。

一体何が起きているかもわからないまま、おじいちゃん運転手は方向転換を始める。もうホテルはすぐそこなのに。

深夜1時の観光案内所

それから5分ほど車を走らせ、政府公認と言われる観光案内所へ到着。周りには何もなく、あたりは真っ暗。とにかく異様な雰囲気だ。

言われるがままに中に入る。中は一部屋しかなくかなりこじんまりとしており、僕以外に観光客は見当たらない。しばらく待つと、奥の部屋から一人の男が出てきた。明らかに偽物のナイキの服を着ていたので、わかりやすくナイキ君と呼ぶことにする。ナイキ君は僕の顔を見るなり、疲れた表情を浮かべながらこう言った。「お前も最悪なタイミングでデリーに来たもんだな」

聞けば数日前から市内でデモが起きているらしく、何と観光客は中心地には入れなくなってしまっているらしい。そんなことありえないだろと疑っていると、ナイキ君はパソコンを開き、デモに関する記事を見せてきた。そこには英語で、DelhiでProtest(デモ)が起きているとのことが記されていた。日付は前日なので、確かに最新情報のようだ。

まだ100%信じきれない僕は、泊まる予定のホテルへ電話をさせてもらうことにした。ナイキ君に予約画面にホテルの電話番号を教え、電話を繋いでもらう。電話にでた受付の人と直接話すと、確かにデモが起きており、予約は全てキャンセルされていると言い出した。

どうやらデリーで本当にデモは起きているらしい。さて、どうしたものか。泊まるあての無くなった僕に対して、ナイキ君は2つの提案をしてきた。

  1. 空港付近の5つ星ホテルに泊まる
  2. アーグラ(200km以上離れた街)に泊まる

1はかろうじて理解できるが、2はあまりにも突拍子がなさすぎるのではないか。2なんて、例えるならば東京に到着したばっかりの外国人観光客に、東京は危ないから今すぐ伊豆にでも行きなさいといっているようなものである。それも深夜1時に。

1に関しては、中心地のホテルに泊まる予定だった観光客がみんな市外や空港付近のホテルになだれ込んでいるため、もう高級ホテルにしか空いてる部屋が残っていないというもの。とは言ってもどこかしらの安宿に1部屋くらい空いているのではないかと思い、パソコンを借りてネットで調べさせてもらう。Agoda上で一箇所空き部屋確認ができたのでそこへ電話しようとすると、何と突然インターネットが止まり、画面がロードされ始めたではないか。

何が起きたんだ。ナイキ君に聞くと「インドでは毎日深夜になるとインターネット回線が混雑し、ネットが使えなくなる」とのこと。あいにく空港でSIMカードを買わなかったため、自分のスマホでもネットには繋げない。この瞬間に、インターネットとの一切の接触ができなくなってしまったのだ。

その後ナイキ君が色々なホテルに電話してくれるが、どのホテルの受付も部屋が一つも空いていないとのこと。夜はますます更け、疲労はどんどん増していく。

ナイキ君のおすすめ、そして決断の時

高級ホテルだったら一泊5万円ほど、それ以外にデリーに泊まれるホテルは見つからない。そこでナイキ君は果敢に2の選択肢であるアーグラ行きを勧めてくる。「デリーにいても明日以降やることないよ」「デリーは他の都市よりも高くて犯罪が多いよ」などのデリーのネガキャンが止まらない。

アーグラへの行き方はと言うと、タクシーを手配してくれるらしい。片道はなんと4万円。200kmも離れているとはいえ、いくら何でも高すぎる。ナイキ君が言うには、「インドの物価は年々上昇している。200kmも離れた隣町へ行くのに4万円くらいかかるのは当然だ。しかも今は深夜だぞ。」

その後も色々話し合うが、話は平行線上で全く先に進まない。時刻は深夜2時になろうとしており、疲労だけが蓄積していく。

「もうタクシーに乗ってアーグラへ行ってしまおうか。。。」そう思えてしまうくらいに僕は疲れていた。デリーに残っても泊まるホテルもないし、デモ中なのでやることもない。アーグラへはもともと行く予定だったわけだから、今行っても数日後に行っても変わらないではないか。

なんとなくアーグラ行きが自分の中で受け入れられてきたので、値段交渉をしてみる。手持ちの現金は合計で3万円ほど。何とか2万円くらいまでは下げたい。

交渉してみると、難なく3万円にまけてくれた。そこから色々話した結果、ナイキ君は何と、学割で2万5000円で良いと言い出した。この時点で怪しいと思うべきだったが、疲労が溜まり過ぎていて正常な思考ができない。

「もう2万5000円払って、アーグラへ行ってしまおう」午前2時すぎ、僕はそう決断した。初めてのインド、空港に到着してからすでに4時間が経過していた。そうして有り金のほとんどである2万5000円を払って、僕はタクシーに乗った。

翌日全てを知って、言葉を失った

そうしてタクシーを走らせること3時間弱。まだ暗い午前5時に、僕はアーグラに到着した。タクシーの運転手は突然僕を狭い路地に降ろし、何も言わずに去ってしまった。

ホテルを探さないと。少し歩くと暗闇の中にいくつもの目が光っていることに気づいた。野生の犬や猿がじっとこっちを見ているのである。それもかなりの数の。恐怖と驚きで、思わず体が硬直する。なんとか足を前に出して、近くのゲストハウスに入り込む。

門番を起こしてチェックインをさせてもらう。門番がオーナーを起こして戻ってくると、オーナーは僕を見るなり、こう言った。

「お前、まさかデリーからタクシーで来たわけじゃあるまいな」

なんで彼は知っているんだ。そう聞き返すと、驚きの返事が返ってきた。

「やっぱりな。月に2~3人は騙されて、こうやって明け方にデリーから運ばれてくるんだよ」

騙されていた自覚のない僕は、この時心底驚いた。聞くと、何と、おじいちゃんタクシードライバーも、デリーで道を封鎖していた自称警察官も、観光案内所のナイキ君も、全員大規模な詐欺グループのメンバーだったと言うのだ。なんならナイキ君が電話していたホテルの受付も彼の仲間 (彼はホテルに電話していると見せかけて、自分の仲間に電話していた)だし、夜中にインターネットが止まったのも彼らの仕業だったらしい。もちろんデリーでデモが起きているのも嘘で、僕のホテルの予約が全部キャンセルされていたなんてのも嘘だった。

あまりの衝撃に言葉を失った。これがインドか。。。東南アジアやヨーロッパを旅し、旅慣れしているから今回も大丈夫だろと安易に考えていた僕は、どうやらインド人にとっては格好のカモだったらしい。

その後は特に大きな詐欺に逢うこともなく、インド旅は無事に終わった。詐欺に遭った直後はとても落ち込んだけど、今はまたインドが恋しくなっている。何とも不思議な国である。